CTの有用性
CTによって骨の形態、硬さが、距離を埋入前に知ることができます。これはとても役に立つ情報です。
例えば、上顎臼歯部でパノラマ上では上顎洞底が低く埋入不可能と思われるケースでも、意外と口蓋側に厚い骨があり傾斜埋入することによって可能となることがあります。下顎でもパノラマでは下顎管が近く埋入不可能と思われるケースでも下顎管が舌側よりに走行していて頬側には埋入可能であるケースはよくあります。
またインプラントと上顎洞底や下顎管との距離を性格に知ることによって、安全にインプラントを埋入できます。
傾斜埋入
インプラントを傾斜させて埋入しても予後にかわりはないというデーターがあります。
長いインプラントが埋入できるだけではなく。上図下顎のようにブリッジのカンチレバーを少なくすることができます。
上図上顎左の傾斜埋入ですが、上顎洞前壁に沿った埋入しかやったことはありません。上顎洞に5mm程度の穴をあけて前壁の位置を確認しながら埋入します。他も同様に鼻腔をはく離して位置を確認したり、上顎洞後壁を確認して埋入するのですが、あまりやるきがありません。
上顎埋入の注意点
サイナスリフトとソケットリフトはそれぞれ利点と欠点があります。今回は簡便性にすぐるソケットの説明をします。
上顎臼歯部ではゴアの膜とソケットリフトによる骨造成は簡便性と低侵襲性で優れています。
上顎臼歯部はかなりの頻度(30-40%)でソケットリフトが必要と思います。
1.鼻腔
鼻腔は直前に硬い皮質骨がありますからまず骨を穿通することはありません。穿通したとしても鼻腔粘膜は厚いのでそれを穿通することはないそうです。たとえ穿通してもそんなに問題はありません。
2・鼻涙管
鼻涙管は後下方へ向かいます。まず損傷することはありません。損傷すると涙目になります
3.頬側に突き出したら
頬側につきだしても問題ありません、角度を変えて打ち直しをします。穴の開いたところはやがて骨ができます。
4.切歯管
切歯菅がインプラントに接触しそうになったら?
口腔外科医によると感覚神経があるとは考えないそうです。切歯菅内の神経を巻き込むとインプラントがインテグレーションしませんので、インプラント体に触れるようなら大きめのラウンドバーで切断します。切断後電気メスで焼いておくのも良いといわれました。私は切断後βTCPを入れています。
5.上顎洞
インプラントの上顎洞内へのつきだしは問題ないか?
上顎洞粘膜は線毛が異物を自然孔に出すように作用しており、インプラントが上顎洞に穿孔しても術後上顎洞炎の原因にはならないといわれています。しかしインプラント周囲炎がおこれば、上顎洞炎の原因になるわけですので、やはり突き出さない方良いでしょう。
上顎洞内にインプラントを残さないようにしましょう。上顎洞炎が発生した場合 因果関係は別として裁判で負けます。
損傷してはいけない血管や神経はあるか?
上顎洞
後上歯槽動脈
上顎洞底にはありませんが、上顎洞側壁骨内に後上歯槽動脈があります。上顎洞底と平行に7-8mm上方を走行します。傾斜埋入のさい上顎洞側壁に穴をあけて上顎洞前壁の位置を確認しますが、その際血管を損傷しないように注意します。歯肉を剥離するとうっすら透けてみえる場合もあります。
血管を切断してしまったら
挫滅させて止血します。とまらなかったらなにかで挟んで止血させます。
6.ソケットリフト
上顎洞を打ち抜く位置は?
まずCTで上顎洞底までの距離を測っておきます。以前は皮質骨を1mm程度残して、1番細いオステオトームで”コン”と打ち抜く方法を採用していました。3-4回に1回の頻度で失敗していました。現在は3-4mm手前で直径5mmまでオステオトームで拡大してβTCPを作成した穴にいれて5mmのオステオトームでたたきます。この方法のほうが失敗は少ないです。皮質骨が硬くて打ち抜けないときは1-2mm拡大してからたたきます。
上顎洞粘膜を破ってしまったら?
上顎洞底をオステオトームで直径5mmまで拡大しておきます、そのまま縫合して、2-3週間後粘膜の回復を待って再度試みれば良いのです。あらかじめ穴はあいていますので今度は確実にリフトすることができます。
骨補填剤はなにがよいか
以前はバイオースが多かったですが、最近は一番使われているのでβTCP(オスフェリン)と自家骨を混ぜ合わせたものです。私はβTCPのみでおこなっています。ただしオスフェリン歯科では認可されていません。
ネオボーン(吸収性HA)は2010/01厚労省認可されました。経過を見ています。
どの程度挙上が可能か
4mm程度が限界でそれ以上だと上顎洞粘膜が裂開するとされていますが、私の埋入術後のパノラマをみると8-10mm近く挙上されています。相当挙上が可能と思っています。
7.臼後結節と翼突静脈叢
臼後結節への埋入については、理由はわかりませんが最近症例が減っています。臼後結節に埋入するときは翼突筋静脈叢または大口蓋動脈を損傷させないようにかなり注意深くおこないます。両者とも止血は非常に困難で翼突静脈叢の場合インプラントを入れて止めるしか無いそうです。この部位が上顎で一番リスキーな箇所と思います。蝶形骨翼状突起へ固定を求めるのが良いといわれています。上顎洞後方を側方から開窓して位置を確認してからやるほうがより確実といわれています。
8.大口蓋動脈
これを切断すると相当止血が困難だそうです。鉗子結紮や圧迫での止血では上手くいかないことが多いそうです。歯槽骨の吸収によってかなり歯槽頂に近い位置にきますので要注意です。
下顎埋入の注意点
下顎は注意しなければ致命的になる場所がいくつかあります。
1.臼後結節
舌神経が臼後結節に走行しているのはまれではありません。臼後結節は頬側に切開線をいれます。縦切開をいれたり、舌側に切開をいれたりはしません。縫合の際も大きく縫合し舌神経を締め付けると麻痺がでます。
2.大臼歯部への埋入 舌下動脈やおとがい下動脈の損傷
下顎の臼歯部での埋入で注意しなければいけないのはおとがい下動脈の切断です。
大臼歯部で下顎骨が大きくえぐれていることはよくあります。術前のCTは有用です。パントモで十分な骨量があるように見えても実際には違うことはよくあります。ここを穿通させると舌下動脈やおとがい下動脈を損傷させます。止血は非常に困難です。
ドリルでの神経の切断は巻き込んで引っ張ってから切断するので切断部位がかなり離れます、つまり切断された部分が発見しにくいのです。これは小臼歯部への埋入や前歯部への埋入でも同様に危険性があります。止血は専門の口腔外科でも数時間かかるケースがあります。舌側への穿孔は危険です。
3.切断してしまったら
過去に何例か死亡事故がありましたが、死因は窒息死です。おとがい下動脈からの出血によって口腔底が膨れ上がることによって、呼吸ができなくなり窒息します。膨れ上がった舌側粘膜を切開して口腔外に出血させることによって死亡を回避できるように考えますがかえって出血時間を延長させます。自然に止血することを期待して圧迫します。
前述しましたように引きちぎられた動脈を見つけるのは専門医でも相当困難ですので、第一選択は「口腔外からの止血と救急車です」 図で見られるようにおとがい下動脈のもととなっている顔面動脈を外側から圧迫します。場所は咬筋の前の部分あたりです。2.の図の丸印のあたりになります。
下顎管との距離
下顎管より出て歯に分布している神経が太いと巻き込みによって下歯槽神経を変形させます下顎管の上縁より3mm離して埋入します。
下歯槽動脈の分枝
下歯槽動脈の上方の側枝も心配します 下歯槽神経の分枝がかなり太いケースがあります。インプラント埋入時に相当の出血があると思います。CTで発見可能です。あまり太いようでしたらインプラントの埋入は避けたほうが無難です。
4.舌側部の剥離について
CTを撮影しない場合は大臼歯部では舌側部を大きく剥離します。縦切開は付着歯肉のみに限り、粘膜部分に立て切開を入れません。鈍的に指などでベロベロと簡単に剥離できます。頬側と違っての舌運動の圧迫によって術後膨れることはありません。
5.小臼歯部
犬歯から小臼歯部の顎骨は舌下腺窩のため凹んでいます。要注意です。
またこの部位におとがい下動脈が顎骨内に入り込んでいることがあります。
まれにですが、これらが太かった場合は顎骨内にドリリングして舌側に穿孔してないにもかかわらず、出血を招きます。CTで確認しておくか、丁寧に剥離して顎骨内にはいりこんでいる動脈を発見したらあらかじめ結索しておきます。大臼歯部と同様に下歯槽神経の上方の側枝も心配します 下顎管の上縁より3mm離します。
6.おとがい孔の確認
おとがい孔はCTで確認しておきます。歯槽骨が吸収しているときは歯槽頂ふきんにあることもあり油断できません、歯槽頂切開でおとがい神経を切断することもあります。おとがい孔近くに埋入するときは丁寧に大きく剥離しておとがい孔に位置を視認しておきます。オトガイ神経は損傷にきわめて敏感な神経で少しきずつけただけで違和感や麻痺が下口唇にでます。
7.下歯槽神経の損傷
下歯槽神経の前方ループがどのぐらいあるかいろいろデーターがあり、ほとんどないから7mm近くまでさまざまな報告がありましたが、現在はほとんどが2mm以下と考えられています。前方ループと思っていたのは分岐した太い切歯枝と思えます。
CTでループの形や切歯枝の太さはある程度把握できます。
太い切歯枝もドリルで巻き込むことによって下歯槽神経を変形させ、同様に麻痺をおこさせます。
特に太い切歯枝が無いときはおとがい孔から4-5mm離してドリリングして埋入しています。
ポケット探針のような鈍なもので直接下顎管の方向を測るのが良いといわれています。1-2週間は麻痺がでるそうです。下歯槽神経は引っ張れば2cmぐらい切断されずに伸びるほど丈夫なのでおこなうほうがより確実とは思います。
8.下顎前歯部
骨の形体に注意して埋入します。舌側の穿孔以外は心配することはありません。CTで確認しておくか、広く剥離します。粘膜部に立て切開をいれないのは同様です。
舌動脈はおとがい棘の外側(中側切歯根尖付近かそのやや下方)から顎骨内に入ります。太いようでしたら注意したほうが良いでしょう。
9.使用しているCTソフト インプラント その他
CT
ランドマーカーダイレクト(LANDmarker Direct) 株式会社i CAT アイキャット
医科で撮影したCTのダイコムデーターをそのまま解読できます。変換料金がかかりません
①CT撮影料金は病院によって異なります。私のそばの病院ですと片額¥10500上下顎¥15700
②ソフト=LANDmarker Direct ¥248000
③ハード(必要なら) ノートパソコン¥101325 デスクトップ(モニター含)¥127470
④年間ライセンス費用(バージョンアップ費用を含む) 初年度無料2年度以降年間¥36000
使用しているインプラント
ノーベル・バイオケアー社 販売 同社 ノーベルリプレイス テーパード Groovy
ソケットリフトをした場合
ZIMMER社 輸入販売(株)白鵬 スプライン ツイストタイプ
アバットメント プロセラアバット
骨補填剤
オスフェリオン(β-TCP) オリンパスメディカルサイエンス販売株式会社
参考文献 科学的根拠から学ぶインプラント外科学 ベーシック編 応用編 偶発症編