墨田区、錦糸町の歯医者小倉歯科のHPです。歯科で使用する抗菌剤の案内。治療費、料金等ご相談受付中。

歯科で使用する抗菌剤

目次

1.はじめに

抗菌剤はいろいろあり選択に迷うところです。いろいろな薬品をはば広く使うより、数種類の薬剤の知識を深くしてパターン化したほうが臨床的に有効と思います。ここではジスロマック、フロモックス、クラビットを主として考察してみました。サワシリン(アモキシシリン)は術前投与としか使用しません。セフゾンもフロモックスが使えないときに使用します。

2.種類 歯科でよく使われている抗菌剤

細胞壁合成阻害 βラクタム セフェム系  フロモックス セフゾン バナン ケフレックス
    ペニシリン系 ビクシリン(アンピシリン) サワシリン(アモキシシリン) ベングッド(バカンピシリン)
    ペネム系  ファロム
  グリコペプチド  
  ホスホマイシン  
蛋白合成阻害剤 マクロライド系 エリスロマイシン クラリス ジスロマック
  テトラサイクリン系  
  アミノグリコシド系  
  オキサゾリジノン系  
DNA・RNA合成阻害 キノロン系 クラビット グレースビット
  リファンピシリン  
  ST合剤  

3.小倉歯科で処方している抗菌剤

(βラクタム系)ペニシリン系   サワシリン
(βラクタム系)セフェム系 プロドラッグ フロモックス
  活性型 セフゾン
マクロライド系   ジスロマック ジスロマックSR クラリス
ニューキノロン系   クラビット

4.抗菌剤の第一選択は

抗菌薬はかなり週類がありどれを使うか迷うところです。歯性感染症の第一選択はセフェム系、歯周組織炎での第一選択は移行率を考慮してマクロライド系、骨髄炎など薬剤の移行が十分で無い時はニューキノロン系が良いとされています。 

  1. ジスロマック(アジスロマイシン マクロライド系)
  2. フロモックス(セフカペン・ビボキシル βラクタム系のセフェム系)
  3. クラビット  (レボフロキサシン ニューキノロン系のフルオロキノロン系)

ジスロマックかフロモックスが第一選択になります。投薬後4-5日経って炎症が改善されなければ、薬を変えます。90%以上が第一選択で治ってしまいます。ジスロマック→フロモックス→クラビットと最後までいったのは2人しかいません。
これら3剤は2011年現在 抗菌力は衰えていません。

グレースビットは(フルオロキノロン系 シタフロキサシン水和物)は非常に優れた抗菌性があります。また錠剤も小さくのみやすいそうです。比較的新しい薬(2008承認)でまだ使っていません。クラリス ファロム優れた薬ですが、数回しか使ったことがありません。

効率と耐性菌

ジスロマック、フロモックス、クラビットを効率よく効かせる方法はそれぞれ違います ジスロマックやクラビットは濃度依存性があります。つまり投与回数を分けるより1回にしたほうが効果的です。

効率と耐性菌2

用量依存型

CMAX/MICニューキノロン系 クラビット AUC/MIC ニューキノロン系クラビット マクロ ライド系 ジスロマック

時間依存型

TIMEaboveMIC βラクタム フロモックス セフゾン

ジスロマックSRは2009年承認され 2g1回投与で1週間効果が持続します。飲み忘れも無く良いと思いますクラビットは100mg1日3回投与が標準でしたが、2009年500mg1回投与が認められました。新しい方法ですので様子をみているところです。まだ処方したことはありません    

薬は最小発育阻止濃度(MIC)を少し越したあたり(MSW)が最も耐性菌ができやすいという考えがあります。高濃度投与はここを通過する時間が少なく、耐性菌の発生を阻止するという点からいっても良い方法と思います。                                         

ジスロマックSRは10%以上に下痢軟便があります。初日2日目にありその後軽快します
フロモックスは時間依存型です。つまり最小発育阻止濃度(MIC)超えた時間が長いほうが良く効きます。投与回数を増やしたほうが良く効くくすりです。最小発育阻止濃度(MIC)を少し越したあたりの時間が長くなるわけですので、耐性菌ができ安いタイプの薬といえます
耐性菌をつくらないため感染症には十分な期間 予防投薬にはきわめて短期間 抗菌薬を使用したほうが良いという考えもあります。中途半端な濃度と期間で投与するのは良くありません、その点ジスロマックの1週間分投与は良いと思っています

ジスロマック(アジスロマイシン)

第一選択はジスロマック!

マクロライド系のジスロマックを使用しています。
ジスロマック250mg 1回2錠 朝食後 3日分  1週間効果が持続します。

特徴としては次のようです。

  1. 安全性が高い
  2. 組織移行性はセフェムより高い
  3. βラクタマーゼ産生菌に有効
  4. 分解されず長く体にとどまる
  5. 飲み忘れが少ない
  6. 炎症のある部位での濃度が高くなり、そこに長く留る
  7. バイオフィルム破壊能力があります
  8. クラリスとの比較して薬の相互作用少ない
  9. ジスロマックの併用注意の薬剤
    1. シクロポリン
    2. ワーファリン
    3. 制酸剤
  10. ジスロマック使用上の注意
    1. 肝臓障害
    2. 授乳中
    3. 妊娠中
    4. 味覚障害

①安全性は高い

セフェム(フロモックなど)より安全性は高いです。

2001年6月に日本で発売を開始し900万件以上処方されています。歯科口腔外科領域で約100万件以上処方されています。アナフィラキシ様症状は全体で25件 歯科領域では2件です。かなり少ない数字と思います。

②組織移行性はセフェムより高いです。

③βラクタマーゼ産生菌に有効

殺菌力はセフェムとほとんど変わりませんが、βラクタマーゼ産生菌がたくさん繁殖しているときはβラクタム系(フロモックス)は効かないのですが、ジスロマックはかわりません。効力が安定しているのではないかと思っています。

④分解されず長く体にとどまる

一日一回2錠を3日間飲んで1週間薬が効いています。マクロライドの薬ですので代謝酵素のチトクロームP-4503A4(CPY3A4)の阻害作用があるはずですが、15員環のジスロマックの場合14員環クラリスなどに比べてその作用はかなり弱くp450による代謝は確認されていません。白血球などに取り込まれて炎症箇所の長くとどまるので、1週間効果があります。

⑤飲み忘れが少ないこと

患者さんが薬をちゃんと(決められた時間、回数、日数飲むかどうか=服用尊守 patient compliance)飲むかどうかは、その薬がの効果に大きな影響があります。

1日1回 80%
1日2回 69%
1日4回 35%

1日1回だと80%ですが4回だと35%と激減します。4回は6時間ごとに服用するわけですが、実際は無理なので 朝食後+昼食後+夕食後+就寝前 とわけるのですが、飲み忘れは多くなります。ジスロマックSRだと1回のむだけですので飲み忘れはありません。

⑥炎症のある部位での濃度が高くなり、そこに長く留まります。

細菌の感染などがあり炎症があるところにはそれを食べる白血球などの食細胞が集まるのですが、ジスロマックはそれらに取り込まれます。自然と炎症部位の濃度が上がります。

⑦ジスロマックにはバイオフィルム破壊能力があります。

近年注目されてきたのですが、ジスロマックにはバイオフィルム破壊能があるようです。このことと炎症部位に長く留まり濃度が高くなる性質を利用して、ジスロマックを投薬して、薬が効いているうちに歯石除去を全額行ってしまう方法とか、投薬で歯周病を治そうという試みがあります。

⑧クラリスとの比較

マクロライドでその他の候補はクラリスがあります。ジスロマックは15員環でクラリスは14員環です、得意な分野が少し違うようです。クラリスは耳鼻科でよくだされる薬です。慢性上顎洞炎に少量長期間(200mg一日一回3-4ヶ月)処方されているのを良くみかけます。インプラントによる上顎洞炎にも良く処方されています、上顎洞の粘膜に良く効くようです。上顎洞粘膜を処置したとき(インプラントで上顎洞に骨を作ったとき(サイナスリフト サイナス=上顎洞 リフト=挙上)などに私は使用していますが、普通に歯科で使用するにはジスロマックの方が優れていると思います。
薬の相互作用がクラリスに比べて少ないこと(下記の表 参照)

ニューマクロライドで併用禁忌となっている薬剤がジスロマックではそうなっていません。

ジスロマックとクラリス 他剤との相互作用

薬剤(商品名) ジスロマック クラリス、
テルフェナジン(トリルダン)   併用禁忌
シサプリド(アセナリン、リサモール)   併用禁忌
ピモジド(オーラップ)   併用禁忌
シゴキシン(シゴシン、シゴキシン) 併用注意 併用禁忌
テオフェリン(テオドール、テオロング、スロービット、フレムフリン)   併用禁忌
ジソピラミド(リスモダン)   併用禁忌
トリアゾラム(ハルシオン)   併用禁忌
カルママゼピン(テグレトール、テレスミン)   併用禁忌
シクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル) 併用注意 併用禁忌
タクロリムス水和物(プログラフ、プロトピック)   併用禁忌
ワルファリン(ワーファリン) 併用注意 併用禁忌
リトナビル(ノービアソフトカプセル)   併用禁忌
イトラコナゾール(イトリゾール)   併用禁忌
リファンピシリン(リファジン)   併用禁忌
シンバスタチン(リバポス)   併用禁忌
制酸剤(水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム) 併用注意 併用禁忌
メシル酸ネルフィナビル(エイズ治療薬) 併用注意 併用注意

⑨ジスロマックの併用注意の薬剤の説明です。

  1. シクロポリン(サンディミュン、ネオーラル)
  2. 免疫抑制剤です。ベーチェット病、尋常性乾癬、ネフローゼ症候群、移植手術の後などにだされます。

    肝臓での代謝がジスロマック同様阻害されるので、濃度上昇により副作用の腎障害が出やすくなります。

  3. ワーファリン
  4. 血液の凝固を阻害する薬です。脳血管や心臓血管に障害があるときに出されています。血液が固まるときにそのシステムの何箇所かでVitaminKが必要なのですが腸管からの吸収を阻害します。VitaminKを静脈注射することで3-6時間で凝固が回復します。アスピリン(小児用バファリン)などと違ってコントロールしやすいので良く処方されています。 ところで腸内細菌もVitaminKを産生しています。抗菌剤は腸内細菌をやっつけますので、すべての抗菌剤は併用注意となっています。しかし短期間の投与ではそれほど影響はないと思います

    血漿蛋白結合率

    ワーファリンは血漿蛋白の結合率が高い薬ですが、血漿蛋白の結合率の高い薬を同時に投薬すると、結合する蛋白が少なくなって血中濃度が上がります。フロモックス、ジスロマック、クラリスは血漿蛋白結合率が低く、ワーファリンの血中濃度を上げにくいので良いと思います。参考までに私が使っている薬で血漿蛋白結合率が高い薬はビクシリンS(前投薬だけ)とファロムがあります。  抗菌薬を使うときは医科に相談するのですが、ジスロマックを使いたい旨伝えるとOKがでます。内科でジスロマックが処方されている例もありましたし、そんなに気にすることはないのかな?と思っています。

    またワーファリン投与時の第一選択はセフェム系を避けてペニシリンが良いとの記述がありました。まあジスロマックが無難かなと思っています

  5. 制酸剤(水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム 下記)で最高血中濃度が低下します。機序は不明です。これ以外のものを使えばよいので、そんなに問題にはなりません。
  6. 「歯科で使われる薬 胃腸薬」AlやMgが入っている整腸剤一覧参照

    ⑩ジスロマック使用上の注意

    1. 肝臓障害
    2. 肝臓での代謝が遅いくすりですので、肝臓障害のある人には長く肝臓に負担がかかり血中濃度も長く保たれますので使わないほうが良いでしょう。老齢の方に使用する時も、肝臓の代謝が悪いと考えて、7日間有効ではなく,それ以上有効と考えて使いましょう。

    3. 授乳中
    4. マクロライド系は母乳移行性がよいのですが、安全性が高い点と新生児への障害が報告されていないので可能です。

    5. 妊娠中
    6. 妊娠中も胎児への障害も同様に報告されていないので同じように投薬可能です。抗菌剤の胎盤移行率は20-30%ですが胎児は薬物代謝機能が未熟ですのでちょっと不安ではあります。

    7. 味覚障害が出ることがあります
    8. 心疾患のある方
    9. QT延長 心室性頻脈をおこすことがあります

6.ジスロマック・フロモックス・クラビットの消化器障害の発生率

  ジスロマック フロモックス クラビット
消化器障害の合計 4.11% 3.52% 1.86%
嘔気(はきけ) 0.27   0.25
悪心(気分が悪い、嘔気がする) 0.16   0.03
悪心、嘔気   0.28  
嘔吐 0.11 0.12 0.14
口角炎     0.05
下痢 軟便 1.75 1.59 0.49
水様下痢 0.05    
口内炎     0.03
口渇   0.06 0.05
胃膨満     0.03
胃もたれ感 0.05   0.03
胸焼け むかつき 0.05 0.06 0.05
食欲不振 0.05 0.09 0.19
舌炎、口内炎、口唇炎 0.11   0.05
白苔 0.05    
黒毛舌の悪化 0.05    
腹痛 0.21 0.12 0.11
腹鳴 0.05    
胃不快感 0.16 0.34 0.41
胃痛 0.21   0.08
膝下部不快感   0.06  
腹部不快感   0.03 0.08
心窩部痛      
便秘 0.05 0.09 0.03
腹部膨満感 0.16 0.03 0.08
下血(便び血液が混じる)     0.03
胃腸障害   0.03  
症例数 1.886例 3.207例 3.649例

7.ジスロマック・フロモックス・クラビットの めまいその他副作用の発生率

  ジスロマック フロモックス クラビット
神経障害 0.52% 0.37% 0.38%
手指振戦     0.03
頭痛   0.06 0.16
頭重感     0.05
不眠 0.07    
舌の痺れ     0.03
口内痺れ感   0.03  
めまい 0.07 0.03 0.03
眠気   0.03  
傾眠傾向 0.07    
ふらつき感   0.03 0.08
浮揚感 0.07    
倦怠感   0.03  
気分不良 0.07 0.03  
痰の詰まった感じ   0.03  
微熱   0.03  
発熱 0.2    
冷感   0.03  
尿失禁   0.03  
症例数 1.886例 3.207例 3.649例

8.ジスロマック・フロモックス・クラビットの臨床検査値の発現率

  ジスロマック フロモックス クラビット
血液検査      
白血球減少 0.88% 0.21% 0.71%
好酸球増多 2.36% 2.05% 1.36%
プロトロンビン値上昇     1.33%
その他 0.99% 0.19% 0.24%
血液生科学      
GOT上昇 2.21% 3.25% 1.39%
GPT上昇 3.19% 3.93% 1.89%
γ-GTP上昇 0.92% 5.00% 0.72%
BUN上昇 0.26% 0.43%  
CPK上昇   1.50%  
ALP上昇 0.88% 0.48%  
血清アミラーゼ上昇     0.69
その他 0.68%以下 0.46%以下 0.52%以下
尿検査等      
  0.19%以下 0.2%以下 0.19%以下

9.フロモックス(セフカペン・ピボキシル)

セフェム系のエステル型(セフェム第三世代)です。安全性でいまでも使われているケフレックス(セフェムの第一世代 ですが、今効かせようとすると相当量出さなければなりません)と同じ系統です。2002年のデーターですが、300mg投与で有効率91%とかなり高率です。現在でも歯性感染症には90%の抗菌力があり衰えていません。βラクタマーゼ産生菌には弱いので4-5日で効かないようでしたら薬をクラビット等に変えます。この薬の特徴は出しやすさにあります。プロドラッグですので胃腸障害が少ないです。また他剤との相互作用や患者様の状態によって重篤な疾患を招くことがありません。薬にはなることはあっても毒にはなりません。歯科の第一選択のひとつです。

投与方法

100mg1回1錠、朝昼夕食後 、重症例では 75mg1回2錠 朝昼夕食後 投与します。小児も投与可能です 1回3mg/kgを朝昼夕食後

相互作用

他剤との危険な相互作用を考えなくて良い楽です。

  1. 「利尿剤との併用で腎毒性があがる」とありましたが、歯科でだす短期投与ではどの程度の副作用があるかわかりません。長期投与は避けましょう。
  2. 胃のPhはあげるもの(①胃酸の出を悪くしたり、②中和したりするもの)は薬効を下げます。フロモックス(エステル型のセフェム系)では溶解が抑制されるためCmax(最高血中濃度)とAUC(血清中濃度曲線下面積)が40-60%低下するため、ほとんど効かなくなります。

①胃酸の出を悪くするもの

胃酸は胃のプロトポンプから分泌されています。プロトポンプにはアセチルコリン、ガストリン、ヒスタミン、の3種類の受容体があります。それぞれの受容体にアセチルコリンなどが結合することによってプロトポンプが作動するわけです。一番確かなのは大元のポンプを阻害してしまうのが効果的です。プロトポンプ阻害剤(=PPI)は下記のようなものがあります。これは市販されていません。市販されよく使われているのはH2ブロッカー(ヒスタミン阻害剤=H2受容体拮抗剤)です。胃腸障害には神経性のものなどいろいろあるのですが、いずれも胃酸の分泌を少なくすればなおってしまいますので、H2ブロッカーが市販されたのは画期的なことだと思っています。医者にゆくことを面倒くさがるかたでも初期の段階で軽快します。夜間はヒスタミン受容体のみが作動しますので夜間の分泌抑制には非常に効果的です。日中はアセチルコリン、ガストロン受容体も働いていますので効きが弱くなります。元から断つにはPPIになってしまうのですが、まずはH2ブロッカーからというところです。H2ブロッカーは市販のものでいろいろあります。

PPI

商品名 一般名
オメプラゾール(アストラゼネカ) オメプラゾール
オメプラゾン(三菱ウェルファーマ) オメプラゾール
タケプロン(武田薬品) ランソプラゾール
バリエット(エーザイ) ラベプラゾールナトリウム

②中和するもの

制酸剤
合成ケイ酸アルミニウム末
天然ケイ酸アルミニウム
乾燥水酸化アルミヌムゲル末
ケイ酸マグネシウム
酸化マグネシウム
炭酸マグネシウム
ケイ酸アルギン酸マグネシウム
ビスマス
マグネシウム
ビスコート
マーロック

10.クラビット (ニューキノロン系 フルオロキノロン系 レボフロキサシン)

ニューキノロンは第三選択ですのでめったに使うことはありませんが、現在 最も抗菌力がある薬です、つまりよく効きます。またよく売れています。販売額が多いのは副作用による大きな事故が少なかったからとおもわれます。安全性でも優れているのでしょう。下記のように併用禁忌はなく併用注意も薬剤も少ないです。

前述しましたようにクラビットの効果は濃度に依存します。濃度を濃くしても副作用が出にくい薬剤といわれています。いままでクラビットは100mg1日3回投与が標準でしたが、2009年500mg1回投与が認められました。新しい方法ですので様子をみているところです。効果や耐性菌の点で魅力的ですが、まだ処方したことはありません

①消化器障害もジスロマックやフロモックスの半分程度と良好です。下痢発生率は0.38%で、非常に胃腸障害の起こしにくい薬です。

②その他の副作用(神経障害など)は他の薬剤とあまり変わりません。

ただ私がニューキノロンを第一選択にしない理由は

  1. 使える人が限られていること 小児、妊婦(妊娠している可能性のある人もダメ)は禁忌 高齢者は慎重投与になっています。
  2. クラビットは比較的少ないのですが、一般に他剤との相互作用が多いこと。
  3. これが最も大きな理由ですが、耐性菌の問題です。多剤耐性緑膿菌の発生など 抗菌剤の歴史はは耐性菌との戦いの歴史です。ニューキノロン系は比較的新しい薬で医科から「他剤で効かなかった難治症例のみに用いるべきで、泌尿器科以外では第一選択にすべきではない」という意見があります。 歯科ではこれを第一選択にすべきではないでしょう。

1.使用禁忌

  1. ニューキノロンに対して過敏症があった方
  2. 妊婦(妊娠している可能性のある婦人)これってほとんどの女性が含まれますね
  3. 小児 動物実験で関節部の軟骨障害 骨障害が認められてます。

慎重投与

  1. 心疾患のある方 ニューキノロンは不整脈のある方には慎重投与です。QT延長によって致死的な不整脈を誘発する恐れがあります
  2. 糖尿病患者、腎機能障害者は低血糖のおそれがあります。 キノロン系のガチロフキサシンでは禁忌です。
  3. 腎障害

  4. 高度の腎障害のかたは高い血中濃度が持続するので、投与量を減ずるか、投与間隔をあけて投与する 低血糖のおそれもあります
  5. 高齢者
    腎機能の低下しているかたは高い血中濃度が持続します。
  6. アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害が新しく追加されました
    60歳以上の患者、コルチコステロイド剤を併用している患者、臓器移植の既往のある患者
  7. てんかん等の痙攣性疾患、また既往のあるもの

薬剤 併用注意

クラビットは併用禁忌はありません。併用注意のみです。ニューキノロンは結構 併用禁忌がおおく、鎮痛薬NSAIDsも禁忌の場合があります。糖尿病の方にガチフロキサシンを投与するのが禁忌になりました。

クラビットの併用注意

①痛み止め (フェニル酢酸系とプロピオン酸系) 併用注意ラットではなし
②テオフィリン アミノフィリン なし
③制酸剤(アルミニュウム マグネシィウム) 併用注意
④鉄剤 併用注意 
⑤カルシュームを含むもの なし
⑥クマリン系凝固剤(ワルファリン) 併用注意
⑦ジクロスポリン なし
⑧プロベネシド なし
⑨グリベンクラミド なし
⑩QT延長を起こす薬剤 2011年版ではクラスⅠA・クラスⅢの抗不整脈剤 併用注意
⑪シゴキシン なし

①痛み止め=NSAIDs(エヌサイズ Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs=ステロイドではない抗炎症薬剤)
一般にNSAIDsとニューキノロンを同時に服用することで痙攣がおきる可能性があります。下記のものを屯用で出します。
ただしクラビットは安全性が高く、マウスによる実験ではサリチル酸、アリール酸(インダシン、ボルタレン等)プロピオン酸(ロキソニン等)フェナム酸、オキシカム、ピリン系、アセトアミノフェンで相互作用なしです。

  商品名 用量
アセトアミノフェン カロナール 1回0.5g 
メフェナム酸 ポンタール 1回250-500mg(初回)
ロルノキシカム ロルカム 1回8mg

心配性のかたは あまり効かないのですが塩基性のチエラミド(商品名 ソランタール)を処方してください。

②テオフェリン(商品名テオドール)はキサンチン系気管拡張剤で喘息などによく処方されています。ニューキノロン剤と併用するとテオフェリンの血中濃度をあげることがおおいのですが、クラビットにその作用はありません。

③ニューキノロン系抗菌剤は金属イオンとキレートを形成して、吸収が阻害されます。胃腸薬は以下のものを使用したら良いでしょう。

アミノ酸系 マズーレンS顆粒、ムコスタ
テルペン系 ゲファニールカプセル、セルベックス、ケルナック、ガストローム顆粒
イソプレニカルコン誘導体 ソロン
トラネキサム酸誘導体 ノイエル、ウルグート

④ワーファリンはVitaminKの吸収阻害によって血液の凝固を阻害しますが、抗菌剤はVitaminKを産生する腸内細菌を殺してしまうので、すべての抗菌剤は併用注意になっています。血漿蛋白との結合のしかたで比較的処方しやすい抗菌剤とそうでないものとにわかれますが、クラビットは良くわかりません。

11.セフゾン

プロドラッグのフロモックスは胃の酸性を少なくする薬と飲めませんが、セフゾンはその影響を受けません。フロモックスが出せないとき、セフゾンをだします。セフゾンは活性型ですが消化器系にたいする副作用が0.8%(開発時のデーター 本当かな?)とかなり低く、比較的良い薬ではないかと思います。

胃腸の悪いかたに胃酸の分泌を抑制する、H2ブロッカーやPPI(プロトポンプ阻害剤)が処方されている場合が良くあります。特にH2ブロッカーが市販されるようになってからかなりの人が飲むようになりました。胃酸の抑制剤はフロモックスなどのエステル化剤では効力が30-50%減ります。 ジスロマックでも20-30%減ります。胃酸抑制剤を飲んでいるかたに適応と思います。

100mg1回1錠 朝昼夕食後

 

他剤との併用注意

  1. 鉄剤 女性で貧血の治療薬としてよく鉄剤がだされています。セフゾンの効力が1/10になります。つまり全く効かなくなります。どうしてもセフゾンを使いたいときは、セフゾン投薬後3時間以上あけて、鉄剤を飲んでもらいます。
  2. ワーファリン すべての抗菌剤はワーファリンと併用注意です。抗菌剤はVitaminKを産生する腸内細菌を殺しますので、ワーファリンの作用を強めます。血漿蛋白質との結合が高いか低いかで投薬をきめているのですが、わかりません。同じ仲間(ケフラール、フロモックス、オラセフなど)結合能が低いのでセフゾンも OKかと思いましたが。「同時投与は避けるべき」という記述もあってわかりません。
  3. 以前、ワーファリンとの併用注意が記載されていない抗菌剤を懸命にさがして発見たことがあります。薬事法上のトラブルを避けるのでしたらこの薬を選べばよいのですが、馬鹿々しいのでやめました。薬剤名も覚えていません。

  4. 水酸化アルミニュウム 水酸化マグネシュウムで吸収抑制があります。阻害の機序はわかっていません。どの程度か不明です。

12.ケフラール(セファクロール)

安全性に優れたくすりです。10年以上前はわたくしもこれ1本でした。かっては非常に良く効き、いまでも使っている先生は多い薬です。ただ最近は抗菌力が落ちてとても使う気になりません。
使うとすれば500mgを1日4回です。これぐらい回数と量を飲まなければ効果が期待できません。

250mg1回2錠 朝昼夕食後と就寝前

13.サワシリン(アモキシシリン) AHAによる予防対象の変更

AHA(米国心臓協会)の予防投薬の指針が1997から2007で大きく変わりました。予防対象はかなり狭まり、予防すべき歯科処置は広範囲になりました。これを採用するかどうか皆さん迷われているようです。私は大きな外科処置のまえにはアモキシシリン2gを投与しています。

250mg8錠 術前1-2時間前
子供は50mg/kgを術前1-2時間前に投与します

AHAによる予防投与対象

  1. 人抗弁置換 あるいは弁の修復に人工材料を使用
  2. 感染性心内膜炎の既往
  3. 先天性心疾患(未修復のチアノーゼ性先天性心疾患で一時的なシャントとコンジットを含む、完全に修復された先天性心疾患のうち術後6ヶ月以内、修復後にもまだ欠損を伴う先天性心疾患で欠損部に人工パッチなど挿入
  4. 心臓移植患者で弁に異常がある
  5.                   

    上記にリストされたものを除いては、抗菌薬の予防投与は他の先天性心疾患に対してもはや推奨しない

    AHAによるリスクのある歯科処置

    歯肉組織や根尖部へ操作が及ぶ、あるいは口腔粘膜を穿通するすべての歯科処置。これには生検、抜糸なども含む

14.口腔外科の投与例 抗菌薬の副作用

口腔外科での投与例

広範囲な手術のときの投与例だそうです、サワシリンとビオフェルミンがセットになっていることとプレドニゾロンが投与されていることに注目してください。なるほど—と思いました

抗菌剤 サワシリン250mg(アモキシシリン水和物 )1回2錠 朝昼晩食後  3日分
整腸剤 ビオフェルミンR(抗生物質耐性=Resistance 乳酸菌)   1回1錠 朝昼晩食後 3日分
プレドニゾロン5mg(ステロイド 腫れ止め)1回1錠 朝昼晩食後 3日分
ロキソニン60mg(ロキソプロフェンナトリウム錠.) 1回1錠 朝昼晩 3日分

副作用

抗菌薬の副作用として1.アレルギィーと中毒 2.下痢 があります

  1. アレルギィー、中毒は軽症の皮膚の薬疹から重症の中毒性表皮壊死症(TEN)や皮膚粘膜目症候群(SJS Stevens-Johonson Syndrome)があります。 治療はまず原因薬剤の中止ですので、比較的半減期の短いペニシリンは良いと思います
  2. 2.下痢の原因のひとつに腸内の正常細菌叢の破壊によるクロストリディウム-ディフィシル(Clostridium difficile)の関与があります。抗菌薬関連下痢症の20-30% 偽膜性腸炎の90%以上に関連しています。ジスロマック、セフゾンだけではなくプロドラッグのフロモックスも原因となりやすい薬剤にあげられています。腸内の細菌叢の維持のためビオフェルミンの投与は良いと思います。
  3. 私はビオフェルミンを処方しません。ジスロマックで胃腸障害がでたらクラビットに替えています

15.高齢者の投与

フロモックス、セフゾンかジスロマックでよいと思います。高齢者では腎機能や肝機能が衰えているので、薬物の排出には時間がかかります。血中濃度半減期が延長されます、つまり長く効きます。ジスロマックは重度の肝機能障害がある場合は不適です

16.妊婦・授乳中の投与

米国FDAによる薬剤の危険度基準

妊婦への投薬ではペニシリン系セフェム系マクロライド系の服用は問題ないとしながら、すべてヒトへ試験がされていなく 「基準B =証明された危険性がない」となっています。
授乳中の方にはβラクタム(フロモックス、セフゾン)は乳汁中への移行率が低く、乳児への影響はほとんどないので最も適しています。セフゾンは使用可能となっています

薬品名 妊婦への適応 授乳婦への適応
フロモックス 基準B 証明された危険性がない 記載なし セフゾンと同等か?
セフゾン 基準B 証明された危険性がない 使用可能
ジスロマック 基準B 証明された危険性がない 評価なし 乳児にも適応される

参考文献
歯科における薬の使い方 2003-2006年版 2007-2010年版 2011-2014年版

17.感染症学会による歯科抗菌薬のガイドライン

AID/JSC(下記)で歯科感染治療に推奨される抗菌薬のガイドラインがありますのでそれに沿って投薬します

AID/JSC(一般社団法人日本感染症学会と公益社団法人日本化学療法学会)

第一選択経口薬

1群または2群(軽症から中等症)

*アモキシシリン(AMPC サワシリン){A・Ⅳ}
1回250mg 1日3~4回
小児 1回10~15mg/kg 1日3回

ペニシリンアレルギーのある場合

*クリンダマイシン(CLDM)ダラシン 1回150mgを6時間ごとに服用{B・Ⅰ}小児には体重1kgにつき、1日量15mg(力価)を3〜4回 体重40kgで大人量

リンコマイシン系抗生物質 細菌の50Sリボソームを阻害する。静菌的に働く抗生物質。

*アジスロマイシン(AZM)ジスロマック 1回500mg 1日1回3日間服用 {B・Ⅰ}(小児は歯科適応無し)

*クラリスロマイシンCAM) 1回200mgを1日2回服用{B・Ⅱ}小児 1回7.5mg/kg 1日2回(歯周組織炎 顎炎)

3群または4群(重症)

*スルタミシリン(SBTPC) コナシン 1回375mgを1日2~3回服用 {C}(小児適応無し)手術創の二次感染 顎炎 顎骨周囲蜂巣炎

注 スルバクタム(β-ラクタマーゼ阻害剤)とアンピシリンの合剤

*クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC)オーグメンチン {C}1回250mgを1日4回服用(小児適応無し)

注クラブラン酸カリウムCVA(β-ラクタマーゼ阻害剤)とアモキシシリンの合剤

*アモキシシリン サワシリン  1回500mg 1日3回服用 {C}小児 1回15mg/kg 1日3回 (体重30kg強で大人量)

ペニシリンアレルギーがある場合

*クリンダマイシン(CLDM)1回300mgを8時間ごとに服用{C・Ⅰ}小児で重症 体重1日量20mg/kgを3〜4回に分けて服用 体重120kgまでOK

*セファクロール(CCL)ケフラール1日750mg  1回250mgを1日3回服用{B}小児1日45mg/kg 1回15mg/kg(添付文書では1日20~40mg)(30mg/kgとして体重25kgで大人量)
注 ペニシリンアレルギー患者の15%はセフェム系にもアレルギーあり

*シタフロキサシン(STFX)グレースビット 1回100mgを1日2回服用 {CⅢ}(小児適応無し)

      

第二選択経口薬

*シタフロキサシン(STFX)グレースビット 1回100mgを1日2回服用{CⅢ}(小児適応無し)

*ファロペネム(FRPM)ファロム 1回150~200mgを1日3回服用 {C}小児 1回5mg/kg 1日3回

いままで主にフロモックスを投薬してきました。副作用も少なく、ワーファリンと唯一併用できる抗菌剤ですが、AID/JSCのガイドラインに沿って変更しました。

フロモックスなど経口 第二&第三世代セフェムはバイオアベイラビリティが悪いので効かないのではないか?と言われています。

バイオアベイラビリティ(bioavailability)とは薬が”どれだけ全身の循環血液に到達するのかという指標です。「生物学的利用能」とも呼びます。薬物は吸収されてから必ず肝臓を通過し解毒されます。(肝臓で洗礼を受ける?)どれだけ解毒されずに残ったかが大事です。 消化管(特に胃酸)でも薬効が減少します

薬剤による重篤な腸炎にClostrium difficileの関与が大きいとされていますが、第三世代セフェムには多いといわれます。腸内に吸収されずに残るせいでしょうか?

米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America、以下IDSA)では三世代セフェムを使わないよう推奨しています

AID/JSC感染症治療ガイドライン
(一般社団法人日本感染症学会と公益社団法人日本化学療法学会)
「感染性治療ガイドライン(下記参照)で歯科感染治療に推奨される抗菌薬一覧」にも三世代セフェムの記載はありません。

小児にピボキシルを投与した際、低カルニチン血症(主として低血糖)の発生があると、PMDA (厚生労働省所管の独立行政法人)でから警告がでています

PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency 独立行政法人医薬品医療機器総合機構

注 カルニチンは脂肪酸でエネルギーで産生しようとする時、ミトコンドリア内部に運搬する役割を担います。つまりブドウ糖の使い過ぎで低血糖となります。長期投与だけではなく 投与した翌日でも起こります。

バイオアベイラビリティ
  バイオアベイラビリティ ピボキシル
セフジニル(セフゾン)第二世代 25%  
セフポドキシム(バナン) 46%  
セフチブテン(セフテム) 分からない  
セフカペン(フロモックス) 35% あり
セフテラム(トミロン) 分からない あり
セフジトレン(メイアクト)第二世代 16% あり
ガルバペネム あり

これだけみると 第三セフェムは相当投与しづらいですね

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