がん治療と歯科治療
がん治療開始前の患者様の治療
Ⅰ国立がん研究センターとの連携
高齢化が進み、がん治療を終えられた方が来院されるのが珍しく無くなりました。今回国立がん研究センターの連携歯科医院になりました。3回に分けて行なわれた医科歯科連携講習会のレジメを、治療前・治療中・治療後とわけて、それぞれの注意事項をまとめました。具体的な患者様の情報はすべて担当医への文書での問い合わせでおこないます。
Ⅱ術前処置 現在
今現在 がん研究センターからは口腔がんや頭頚部にがんのある方は紹介されません。歯科医院に求められていることは深い専門知識を必要としていません。通常の患者様に初診時に行なう、検査やスケーリングなどです。2回ほどで終了します。少し違うところがあるので述べたいと思います。
患者様への応対は院長挨拶や担当衛生士の紹介等、特に一般のかたと変わりありません。患者様のプライバシーを守ることは大事です。また言葉使いにも気をつけます。「がん」や「手術」という言葉はなるべく避けて「ご病気」「病院での治療」を使います。
特別扱いされて当然といった態度をとる方もいらっしゃいますが、一般のかたと同様に扱います。
がん治療は手術・放射線・化学療法がありますが、3つとも行なわれると考えたほうが良いと思います。血液のがんの場合のように化学療法のみで治療するケースもありますので、患者様の来院時にネットですぐ最新の治療法を調べてしまったほうが、より信頼を得られると思います
① 1回目の来院時 歯周病の一般検査 縁上の簡単除石
治療費用は¥3.000程度となっていますので、パントモは必要に応じて、患者様の了解を得てから撮影します。次回の内容を決めて予約していただきます
② 2回目の来院時に
縁上の歯石の除去とPMTC
大きな蝕窩があれば感染歯質を除去してネオダインで仮封します
全身麻酔時や気管チューブを挿入するときに脱離するおそれがある歯は基本的にはスーパーボンドで固定します。
歯牙の抜歯の時期ははっきりしません。ほとんどのケースでは外科処置から始まるので、あまり治療開始の近直でなければよいのですが、抗がん治療が化学療法のみで始まる場合では白血球減少がありますから、少なくとも7日(下顎)か5日(上顎)は必要とされますので、治療内容を確かめます。
理想的には10日-2週間前と思います。
TBIを行ないます。これが非常に重要な事項になります。
1.患者様ご自身での口腔のクリーニングが非常に重要であることを理解していただくことが大事です
手術は全身麻酔で行なわれますので、気道確保のための気管挿管をしますがこのとき口腔が汚れていると気管に歯垢を押し込みます また手術後に気管チューブをいれる場合 口腔が汚れていると肺に汚れがたれこみます。いつもお口の中をきれいにしていただくこと、特に手術当日の朝のクリーニングは重要です。
例えば食道がんの場合は気管チューブの挿管期間が長いのですが、クリーニングで術後の肺炎の発生率を20%から4%に低下させられます
図のカフと気管の隙間から「たれこみ」がおこります。口から食事をしない為、口腔が唾液で洗われることがなく、汚染された唾液を誤嚥します。
2.舌苔があれば歯ブラシやで落とすように指導します。ブラシの硬さは普通です。
歯間ブラシが必要でしたら指導します。
後述しますが、化学療法を行なうと口内炎はかなりの頻度で発生します。(がん治療中の患者様-口腔粘膜炎参照)
重度の口内炎の場合でも、歯牙をきれいにして口腔内を清潔にすることは口内炎を軽減します。ブラシで舌が傷つくようでしたらスポンジブラシを使用していただきます。その際、歯ブラシはヘッドが小さく柔らかめのものを用い、歯牙のみ磨きます。タフトでも良いでしょう
3.歯磨剤 洗口剤は刺激の少ないものをすすめます。アルコールがはいっているようなものは不可です。
歯磨剤はルシュロの甘いのを当院ではお薦めします
4.うがいは誤嚥を避けるため、「がらがらうがい」ではなく「ぶくぶくうがい」を薦めます
Ⅲ術前処置 今後
入院まで期間がある場合つぎのようなことが今後求められてくると思います。
化学療法は骨髄抑制により白血球の減少がおこりますので、いままでおとなしくしていた歯周病や根尖病巣が悪化します。
また頭頚部への放射線照射があるとき、金属物の放射線散乱による影響や唾液腺の萎縮によっておこるカリエスの多発があります。ORN(放射線性骨壊死Osteoradio necrosis)のほとんどは、放射線治療後の抜歯と歯周病後の憎悪を契機として、治療終了後数年たっても発症します。これらを考慮した治療が求められると思います。
また抗がん剤や放射線の副作用が少ない場合、外来で通院しながらがん治療を受けられる方もいらっしゃると思います。
Ⅳ化学療法時・頭頚部の放射線治療時の抜歯のガイドライン
(抜歯適応)
1. ポケットが6mm以上
動揺度が過度にある
プロービングで排膿がある
2. 根尖性歯周炎がある(活発化していなければ抜歯する必要は無いとの記載もあります)
3. 根が破折して、保存修復不可能 その歯は機能しておらず、口腔清掃時にも痛みは無し
4. 患者が歯を残すことに関心がない
5. 歯を残すと炎症、感染、または悪性腫瘍のリスクが上がる
(抜歯処置)
歯牙の抜歯は手術10日から2週間前が理想てきですが、メリットとデメリットを考え 緊急に必要となった場合医師と相談して下記のように処置を行ないます。
1. 最小限の侵襲で抜歯を行なう
2. 少なくとも化学療法開始前5日前 上顎
3. 少なくとも化学療法開始前7日前 下顎
4. 抜歯創部の鋭縁な歯槽骨はトリミング
5. 1次閉鎖をする
6. 抜歯後の創部被覆材は細菌培地となるので使用しない
頭頚部のがんとORN
頭頚部のがんで放射線治療をおこなう予定のある場合は抜歯したことによってORN(放射線性骨壊死Osteoradio necrosis)が発生するリスクがあります。
しかし照射まえの抜歯によるORNの発生率は10%以下で大抵保存的な治療によって治癒しますが 照射後の抜歯のの発生率は30%以上と高率で保存的な治療による治癒が困難です。これから考えると、抜歯すべき歯は治療前に抜歯しておくのが良いと思えます
ビスフォスフォネート製剤とBRONJ
がん治療後 骨転移しやすいがんの場合、BP製剤(ビスフォスフォネート製剤(Bisphosphonates)によるBRONJを考慮しなくてはなりません。BP製剤の休薬期間や、処置後の開始時期ははっきりしたデーターがありません。BPの開始は抜歯が上皮化するまで(14-21日間)もしくは骨が治癒するまで(2-3ヶ月)となっています。もし治癒まで2-3ヶ月かかるとすると術前に抜歯したことによってBRONJが発生することになります。しかしORN同様、BP製剤(特に注射による)投与後に抜歯することのリスクから考えると、抜歯すべき歯はあらかじめ抜歯しておいたほうが良いでしょう
術後骨転移を起こしやすいくBP製剤を投与が考えられるがん(1位肺がん 2位乳がん・前立腺がん 3位腎がん・肝がん・子宮がん多発性骨髄腫
がん治療中の患者様の治療
Ⅰ がん化学療法中の歯科治療
一般の歯科開業医には、1回目の抗がん治療で有害事象が比較的軽い患者様がいらっしゃると思いますが。それを確認することは重要です。
抜歯・投薬(抗菌剤・鎮痛剤等)を含めてすべての歯科治療は担当医にそうだんして対処します。
抗がん剤の投与は ほとんどのがん治療でおこなわれます。抗がん剤というとがん細胞に特別に効くように思われますが、がん細胞が普通の細胞より増えるスピードが速いことに着目して、サイクルの速い細胞は正常細胞でもやられます。毛根・消化管の粘膜・骨髄(特にサイクルの速い、白血球、血小板)がやられます。
分子標的剤という、がん細胞にとくに作用する薬が作られて副作用(有害事象)が無いことを期待されたのですが、いままで以上に副作用(有害事象)があります。
抗がん剤の治療は投与期間と2-3週間の休薬期間があります。投与と休薬期間をあわせて1クールといい、これを数回繰り返します。化学療法中はそれに伴った副作用(有害事象)がでます。それへの対処の仕方を述べます。
また歯科の治療(口腔ケア・歯周病治療 など)は化学療法の前か後に行なうのが望ましいのですが、加療中でも状態によっては可能です、それについても後述しました
抗がん剤は骨髄だけではなく、腎臓、心臓、肝臓、神経に有害事象がでます。歯科の治療が抗がん剤治療へ影響することもありますので、担当医との相談が必要です。例えば鎮痛剤の投与に関して、シスプラチン(白金系抗がん剤)使用のさいは腎臓への影響を考えてNSAIDsは投与できません、アセトアミノフェンを投与します
歯科では、口腔粘膜の損傷 白血球・血小板の減少(易感染性 出血傾向) 唾液腺の変性 創傷治癒の遅れ が主な有害事象です
Ⅱ 口腔粘膜炎
抗がん剤投与後2-14日に起こります。初期には抗がん剤の作用ででます。後期には白血球減少による感染や唾液の減少による乾燥が原因です。
口内炎によく使うケナログ(ステロイド)は傷の治りを遅くするので使ってはいけません。
患者様には食事の内容を工夫していただきます。
① 口腔内清潔保持
口腔粘膜炎を軽減させるために歯を磨くことは必要です。その際は粘膜に触れないで、歯牙のみを磨くように指導します。歯ブラシはヘッドが小さく、毛先が柔らかいものがよいです。タフトのように1本づつ磨く方法もあります
②口腔内保湿
生理的食塩水や保湿剤を使い含嗽してもらいます。粘膜炎消失まで続けてもらいます
生理的食塩水の作り方
1Lのペットボトルに水道水・塩9g(小さじ2杯で10g)をいれて、ふたをして良く振ります
毎日作ってもらいます 1日8回うがいします
うがい薬
500mlのペットボトルに水道水1/3・含嗽用ハチアズレ5包・グリセリン60mlを入れる。よく振ってから水を足して500mlにします
1日4回 1回10mlを2分間グチュグチュうがいをしてもらいます
③ 疼痛コントロール
*軽度のものは含嗽のみ。
*痛みが強いものは食事20-30分前に痛み止め(アセトアミノフェン・ロキソニン1tab・ポンタールシロップ10ml)を使ってもらいます。前述しましたが抗がん剤シスプラチンは必ずアセトアミノフェンを投与します
*重度のものはオピオイド(麻薬系)を使用します。病院に依頼します
Ⅲ その他の有害事象
1)味覚異常・味覚障害
一過性のもので、治療後 回復します。対症療法しかありません。匂いのあるものを食べていただくか、人と会話しながらたべるとか工夫していただきます。一般の味覚障害とは違い亜鉛の投与は無効です
2)歯肉出血
血小板の減少によって歯茎より出血します。ガーゼで15分以上圧迫止血を試みます、止血できない場合はユージノール系歯周包帯をおこないます
血小板が20000以下ですと、自然出血しやすいので、輸血の適応があれば主治医に依頼します
3)口腔感染・歯性感染(根尖病巣・歯周病・知歯周囲炎の悪化)
がん治療前に処置してしまうのが好いのですがそれを逸したケースです。
治療開始前に終了するのが望ましいのですが、抜歯は理想的には次の治療開始10―14日前に終了させますが、1クールが3-4週間でナディアの時期を考慮すると。日数的にきびしいですね。どうしても抜歯の必要がある場合は後述の化学療法時の抜歯のガイドラインにそって行います。
時間が無い場合はブラッシングや初期治療のみで終了させます。
4)ヘルペス性口内炎
抗ウィルス剤で2-3日で軽快します
処方例 バラシクロビル(バルトレックス)500mg 成人1回1錠 1日2回
5)カンジタ性口内炎
通常のカンジタと同様に扱います
抗カンジタ薬の使用(ミコナゾール軟膏 ファンギゾンシロップ10倍に薄めて含嗽 イトラコナゾール内用液)
義歯があれば洗浄剤(ピカ)で洗浄
6)末梢神経障害(知覚過敏症様の症状)
全ての歯が沁みる感じがします。一過性のもので自然治癒しますので特に治療はしません
知覚過敏処置は無効です 抜髄処置も無効です
Ⅳ 歯科治療
前述しましたようにナディアで易感染状態の患者様が一般開業歯科医院に来院されることは少ないと思いますが以下のような指針があります
1. 軟組織にやさしい処置を行なう(粘膜に損傷を可及的にあたえない)
2. 血小板が4-5万以上あること
3. 白血球が2000/μl以上(好中球であれば1000/μl以上)あること。正常値が4000-9000/μからするとかなり低い値だとおもいます。
化学療法による白血球の変化と治療内容
上図のカーブのどん底(7-14日)をNadir(ナディア)といいます。このカーブは投薬の種類また患者様によって違います。1回目の化学療法時にそのタイプがだいたい分かります
白血球が2000/μlを下がらない時期
基本的には歯科治療は可能と考えられるが、化学療法後に行なえるものはそのほうが望ましい、また次の化学療法直前が望ましいです。
処置可能なもの 含嗽・ブラッシング・スケーリング(縁上?)
処置注意なもの 抜髄処置 感染根管治療 抜歯
白血球が2000/μlを下回る時期
処置可能なもの 含嗽
処置注意なもの ブラッシング
処置不可 スケーリング・保存修復処置(レジン・グラスアイオノマー)・抜髄処置・感染根管処置・抜歯
Ⅴ 化学療法時の抜歯のガイドライン
(抜歯適応)
1. ポケットが6mm以上
動揺度が過度にある
プロービングで排膿がある
2. 根尖性歯周炎がある(活発化していなければ抜歯する必要は無いとの記載もあります)
3. 根が破折して、保存修復不可能 その歯は機能しておらず、口腔清掃時にも痛みは無し
4. 患者が歯を残すことに関心がない
5. 歯を残すと炎症、感染、または悪性腫瘍のリスクが上がる
(抜歯処置)
頭頚部のがんとORN
頭頚部のがんで放射線治療をおこなう予定のある場合はORN(放射線性骨壊死Osteoradio necrosis)のリスクがあります。
ビスフォスフォネート製剤とBRONJ
また骨転移しやすいがんの場合、BP製剤(ビスフォスフォネート製剤(Bisphosphonates)によるBRONJ (Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw)を考慮しなくてはなりません。ステロイドや糖尿病など全身疾患がある場合は指針がでていません。BP製剤を中止後にBPの開始の時期もはっきりしません。抜歯が上皮化するまで(14-21日間)もしくは骨が治癒するまで(2-3ヶ月)では ちょっと条件が厳しくなります
1. 最小限の侵襲で抜歯を行ないます
2. 少なくとも化学療法開始前5日前 上顎
3. 少なくとも化学療法開始前7日前 下顎
4. 抜歯創部の鋭縁な歯槽骨はトリミングします
5. 1次閉鎖をします(減張切開をしてまで封鎖するのか?不明です)
6. 抜歯後の創部被覆材は細菌培地となるので使用しません
7. 血小板5万/μl以下では輸血します
8. 白血球2000/μl(好中球1000/μl)以下、もしくは10日以内にこれと同じレベルまで下がるならば、抜歯を延期する。そのかわり、どうしても抜歯しなくてはならないならば、予防的抗菌薬を使います
術後骨転移を起こしやすいくBP製剤を投与が考えられるがん
1位肺がん 2位乳がん・前立腺がん 3位腎がん・肝がん・子宮がん多発性骨髄腫
Ⅵ がん化学療法中の歯科治療の考え方のまとめ
治療計画・内容を直接担当医に文書で問い合わせ、相談します
がん化学療法中の歯科治療は白血球低下の状況を知ることで、回復時期に合わせて行なうことができます
観血処置は白血球2000/μl以上、血小板4-5万/μl以上が確保されていることが条件になる。よって化学療法が繰り返し行なわれる場合、次回治療開始前が最も血液状態(全身状態)が安定しており、その時期が抜歯のタイミングとなります
非観血的処置は、基本的に白血球数、血小板数に関係なくおこなうことができるが、治療後の全身的な有害事象が強く出る時期は避けるのが望ましく、観血処置同様、次回の化学療法直前の処置が望ましいです
がん治療終了後の患者様の治療
Ⅰ 化学療法
化学療法終了後3週間以上経過すれば血液状態はほぼ正常になっています。副作用としての臓器障害(心臓、肺、腎臓、肝臓、甲状腺など)も回復していますが。後遺症として障害が残っているときは、それぞれの臓器の治療内容に準じて処置をします。歯科治療の可否はほとんどの場合患者様が担当医より知らされていますが、不明な事項がある場合は、直接担当医に文書で問い合わせます
Ⅱ 頭頚部への放射線治療
頭頚部への放射線治療は5%と比較的少ないですが、来院されることもあります。前述したように頭頚部放射線照射後の抜歯は放射線性骨壊死(Osteo radio necrosis :ORN)を招きます。放射線照射まえORNの発生率は10%以下で大抵保存的な治療によって治癒しますが 照射後の抜歯のの発生率は30%以上と効率で保存的な治療による治癒が困難です。これから考えると、抜歯すべき歯は治療前に抜歯しておくのが良いと思えますが、それを逸したケースです
歯槽骨への侵襲だけではなく軟組織への侵襲もORNひきおこすことがあります。(しかしそのことを考慮すると歯周治療など全くできなくなってはしまうのですが?)
以下のことを必要があれば放射線科へ確認します。
1. 放射線が当たった範囲(照射野)
2. 放射線があたった量
3. 放射線を行なった時期
4. 原病の状態(治癒?担がん状態?)
① 抜歯
放射線治療前に抜歯した場合ORNの発生率は10%以下で大抵保存的な治療によって治癒しますが 照射後の抜歯のの発生率は30%以上と効率で保存的な治療による治癒が困難です。抜歯は基本的には避けるべきと思いますが、以下のようなガイドラインがでています
がん治療が放射線照射単独で行なわれた場合のガイドラインは以下のようです。化学療法が加わる場合は適用できません。しかし、ほとんどのケースで併用されると思いますが、その場合についての指針はありません。
上顎は抜歯してよい(ORNが全くないわけではありません)
下顎は骨への照射量が55Gy未満であれば抜歯は許される。骨の照射量が55Gを超えるようであれば、根管治療が推奨される
高圧酸素療法(Hyper baric oxygen therapy:HBO)は下顎骨への照射が55Gy以上の場合は併用が推奨される
② 瘢痕形成 軟組織壊死
口腔軟組織の虚血が主因です。既存の周囲炎があった所や義歯に圧迫された粘膜に生じます。義歯のケア、歯周病の管理が重要です。これらについては後述されます
③ 開口障害
早期からの開口訓練をします
④ う蝕
唾液腺障害によりう蝕は多発します。放射線によって歯を失う97%はう蝕です
放射線う蝕予防のためにはカスタムトレーを1%フッ化ナトリウムを毎日5分口腔内に永続的に適用することが推奨されます。年に2-4回は専門家によるフッ素塗布を行います
歯髄覆罩は歯髄の回復がおちているため推奨されません
エッチングによる脱灰を避けるため、レジンよりもグラスアイオノマーが良い
う蝕が大きくてもエナメル質はなるべく残す
歯周組織への外傷をさけるためクランプ装着は慎重に行います
⑤ 歯周治療
コントロールされていない歯周病よりORNは発生します。また抜歯を避ける意味でも可能なかぎり歯周病治療はおこなわなければなりません。
しかし軟組織への侵襲もORNひきおこすこともあり具体的な治療方針(SRP、外科処置が可能か?)ははっきりしません。
⑥ 感染根管治療
愛護的で適切な根管治療をおこなうならば問題ありません
根管の狭小化があり根管拡大が難しいケースもあります
その他 開口障害
・ 縁下カリエス(歯肉外傷からのORNを避ける?)よりによるラバーダム装着困難
・ 咽頭反射の低下でファイルを誤嚥しやすいこと・等があります
推奨される根管治療
根管開放は避ける・水酸化カルシュムのよる貼薬・根尖刺激を避ける(根尖部アンダー根充など)
⑦ 補綴
(FMC)
マージン部はできれば縁下に(歯肉外傷からのORNのリスクがあります)
圧排糸の挿入時にも要注意
(義歯)
シリコンのリライニングは粘膜の湿潤性を減らしカンジタの発生がありますので推奨されません。短期間でのT.Condは可能と思われますが、はっきりしません
⑧ インプラント
インプラントは推奨されません。50Gy以上の照射を行なった骨ではサバイバルレートが下がります
Ⅲ ビスフォスフォネート(BP)関連壊死
(Bisphosphonate related osteonecrosis of iaw:BRONJ)
がんの骨転移を防ぐためにBP製剤が投与されるケースがあります。
術後骨転移を起こしやすいくBP製剤を投与が考えられるがん
1位肺がん 2位乳がん・前立腺がん 3位腎がん・肝がん・子宮がん多発性骨髄腫
BP製剤とBRONJの発生
日本でのBP製剤によるBRONJの発生は 注射で1-2%、内服で0.01-0.02%と圧倒的に注射が多いです。骨粗鬆症の第一選択がBP製剤なので、歯科医院に来院される方でBP製剤服用の方は多くいらっしゃいます。抜歯が必要な場合は休薬していただき、抜歯後一定期間の後に再開していただいています。しかしがん治療の場合 注射が主になり、しかも中止は困難と思われます。
BRONJの危険因子は・ステロイド投与・糖尿病・喫煙・飲酒・口腔衛生の不良・化学療法薬があります。
経口投与の場合、頻度が少ないこともありある程度の休薬の目安があります。この時期休薬が可能か?危険因子がある場合の対処?また、骨粗鬆症における経口BP製剤と同様に考えてよいか?全く不明です。
口腔ケアは骨壊死のリスクを1/3に減少させますので重要です。
がん治療前に抜歯すべき歯は抜歯しておいたほうが良いのですが、BP製剤服用の方は術前の抜歯がBRONJを起こすこともありえると思います。「がん治療まえの患者様の治療」でも述べましたが、BP製剤投与中の抜歯に比較するとリスクは少ないで、がん治療後に抜歯が必要となりそうな歯はあらかじめ抜歯しておいたほうが良いわけです。それを逸したケースです
BP製剤投与中の抜歯は避けたいのですが、やむおえない場合治療方針は以下のようになります
・抜歯以外の保存的な歯科治療を再度検討・
・感染リスクの軽減、上皮化促進のための努力
・愛護的な抜歯操作、抜歯窩の縫合、予防的抗菌剤投与
Ⅳ 造血幹細胞移植患者(Hematopoietic stem cell transplantation)
骨髄移植(Bone marrow transplantation:BMT)白血病などの血液がんで行なわれます。まず抗がん剤や放射線(Total body irradiation:TBI)で全身の骨髄を壊死させます。その後、健全な他人の骨髄を移植します。移植後定着した骨髄の血球は患者さまの体を異物と認識して攻撃をはじめます(移植片対宿主病:graft versus host disease;GVHD)。最近は臍帯血移植、ミニ移植等多様化しています。術前処置では白血球の減少による易感染性のリスク(歯周病や根尖病巣の悪化など)が考えられます。術後はGVHDの影響(粘膜症状・唾液の減少など)があります。
術前・術後の歯科治療への注意が記載されていましたが、不安定な時期の患者さまが、一般歯科医院にまず来院されることは無いと思いますので割愛します