歯科医院にはドライマウスで悩む患者様がかなりいらっしゃいます。口腔を扱っているせいで相談されることはよくあると思います。
一般歯科医院では「分泌促進剤」を処方できるか不明で、ドライマウスの治療は耳鼻科か内科の仕事だと思っていました。しかし分泌刺激剤の長期投与は分泌細胞の疲弊と減少をまねき、かえって悪いという考えもあり、処方にこだわる必要は無いと私は思っています。ドライマウスの治療は処方以外の保湿や筋肉トレーニングが主で、これは歯科医師の仕事だと考えています。
ドライマウスは唾液量の減少、お口のネバネバ感や痛みを主訴とする疾病で中高年の女性が多い疾病です
日本人の1/4(3000万人)は口腔乾燥症があり、そのうち50万人はシェーグレン症候群と推測されます。しかし50万人いると推測されている内7万5000人がシェーグレン症候群として厚労省に認定されていて、残り42万5000人が診断されていないと思われます
口腔乾燥と言うと「歳をとったからだ!」といわれますが、唾液腺は加齢に非常に強い臓器で、心身ともに健康で年を重ねたならば口は渇きません。他に原因があると考えたほうがよいでしょう。
以下に診断・原因・治療を書きましたが、原因除去はなかなか困難で対処療法が主になると思われます
この章は斎藤一郎先生の「ドライマウス(口腔乾燥症)の原因と対処法」をまとめたものです。
鶴見大学先制医療研究センター 医療技術トレーニングシリーズ
ドライマウス(口腔乾燥症)の原因と対処法
診断と治療の実際 講演者 鶴見大学教授 斎藤一郎先生 ジャパンライム(株) 発刊
① 問診票
下記の「原因と対処法」にあてはまるものが無いか問診します。問診表の雛形もあります
② 唾液量の検査
1.安静時唾液 15分間唾液をコップに出して1.5cc以下ならドライマウス
2.ガムテスト ガムを噛みながら10分間唾液をコップに出して10cc以下ならドライマウス
3.サクソンテスト ガーゼを2分間噛んでいただき2g以下ならドライマウス
鶴見大学での検査結果
安静時・刺激時唾液ともに低下 36%
安静時・刺激時唾液 いずれかが低下26%
安静時・刺激時唾液 共に低下なしにもかかわらず口腔乾燥を訴える 32%(ストレスが原因ではないか?)
不明 7%
③ シルマーテスト(涙の量を測ります。ちょっと痛いです。シェーグレン症候群かどうか診断するために歯科医師ができる医科的検査 保険で38点)
④ 口腔生検や血液検査 ①・②・③を行いシェーグレンの疑いがあれば唾液腺の生検を大学病院など病理検査のできるところに依頼します。侵襲が少なく粘液膿疱の摘出と術式は同じです。これによってシェーグレンかどうか確定します
1.カンジタ症 舌痛症や口の中の痛みがある時 抗真菌剤(フロリードゲル)を塗布または内服します (小倉歯科ではファンギゾンシロップを処方しています)
ケナログ(ステロイド)はかえって治癒を遅くさせますので禁忌です
2.口角炎 両側にある場合はカンジタを疑う 抗真菌剤を投与します
3.平滑舌 味蕾の障害によって味覚異常(味がなくなったり、かえって強く感じたりする)
4.その他 う蝕 歯周病 粘膜疾患 味覚障害 口臭 上部消化管(咽頭・胃)障害 摂食嚥下障害があります
以下の原因が単独で、または重なり合ってできます。原因が除去できるものは除去しますが、それ以外は保湿等の対処療法になります
① 糖尿病
糖の排泄に伴って、水分も排泄され脱水する
② シェーグレン症候群
歯科医師が診断して、処方できる疾患 目と口の乾燥感を主症状とする難病のひとつ
③ 腎不全
30万人 透析の際に脱水される。水分を溜めないために水をあまり飲めない 重度のドライマウスが生じる
④ 更年期障害
急激な女性ホルモンの低下によって生じる 乾燥症候群{ドライマウス ドライスキン ドライヴァジャイナ(膣乾燥)}がある
⑤ ストレス
安静時と刺激時唾液の低下ないにもかかわらず、口腔乾燥を訴える患者様が1/3程度、かなり効率でいらっしゃいます。だれでも 緊張すると口が渇きます。これは心療内科的な対応が必要と思われます。
対処
1. ストレス・心身症 心療内科に紹介します
2. 歯科医師がおこなう口腔筋機能療法:OFT(Oral Functional Therapy)
笑っていると気分がよくなります つまり楽しいから笑うのではなく、おもしろくないときでも無理やり笑っていると気分が楽しくなります
表情筋を動かすことによって心のありようを変えることができるということです、また表情筋を鍛えることによって分泌量を増やせますから2重の効果があります
⑥ 筋力の低下
加齢と共に筋力が低下し分泌が下がります
対処
筋肉トレーニングOFTで対処します
初診時1.0ml→8週間後1.5ml→16週間後2.0mlと時間はかかりますが、かなり効果があります
⑦ 薬の副作用
対処
同じ効果の口渇がない薬に変えることを担当医に依頼する また薬に頼らない生活に変えることで対処します
患者様の飲んでいる薬で口渇が副作用としてあるものを調べるとたくさんあります。以下はほんの一例です。
1.抗精神剤・睡眠導入薬・抗うつ剤
2.抗圧剤
3.抗アレルギィー剤 花粉のアレルギィーの時期では抗ヒスタミン剤
4.胃液の分泌を抑えるくすり(PPI・H2ブロッカー)
5.抗コリン薬(頻尿を抑える薬 800万人いる 夜中にトイレにいって転倒して骨折の危険)非常に唾液の分泌を抑える バップフォー
内科ではコップに水を入れておくことをすすめています、保湿プレートを装着して対処します
実際の治療は困難な点もあります。私(小倉)の経験ですが、かつて患者さまの飲まれている薬を調べた際、2/3に「口渇」が副作用の欄にのっていて、薬を変えることがちょっと不可能に思えるケースがありました。
高齢の方は多種、大量の薬を服用されているケースが多いです。飲まれているどの薬がどの程度「唾液の減少」に関係しているか不明ですし、データーもありません。
⑧ 老化
一般に加齢とともに口腔乾燥はすすむものと考えられていますが、唾液腺は加齢に非常に強い臓器で、心身ともに健康で年を重ねたならば口は渇きません。ストレスや薬剤の副作用などが口腔乾燥の原因と考えられます
⑨ 就寝中の開口によるもの
日中は乾燥感がなく夜間の乾燥感や起床時の不快感があります、これは口呼吸が原因です 1.寝るときの体位を変えてみる 抱き枕など
2.鼻閉塞があれば耳鼻科に紹介
3.睡眠時無呼吸症候群の可能性もあります 耳鼻科に紹介
① 保湿
舌の粘膜の再生は2週間なので、保湿を2週間きっちりしてもらうことで味覚障害や平滑舌が改善されることが多い
保湿スプレー・保湿薬・保湿ジェル
保湿装置 はぎしり防止装置のような形をしています 中に保湿剤などをいれて夜間の乾燥を防ぎます
② 分泌刺激剤
1.塩酸セビメリン(サリグリン エボザック)
2.塩酸ピロカルピン(サラジェン)
これらは適応がかぎられていて、原因が頭頚部の放射線治療かシェーグレン症候群のみに適応です 効果はあり症状は改善されますが、患者様が 唾液が増えたことを自覚するほどではありません。一時的に使うことは有効と思われます。漢方薬を使うこともひとつの方法です
③ 筋肉トレーニングOFT(口腔機能療法Oral Functional Therapy)
1.ホッピング
舌打ちをする運動です。口を大きくあけて舌尖を硬口蓋につけ、奥にずらして舌打ちをします。10回行います
2.舌ぐるぐるエクササイズ
頬部や唇部を押すようにしながら、舌をぐるぐる回します。1回転8秒で、少し疲れるまで繰り返します
3.空気プクプクエクササイズ
空気でほっぺを膨らませます。右頬→左頬→上唇部→下唇部 4秒づつ 1回計16秒